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不動産と不用品回収
あれはいけません。よけいな工夫というものです。だいたい、おサルのCMSは、不用品回収のエテ公が余所見ばかりしているので、乗っていて気が気じゃない。 野毛山への行き帰りの電車で読んだのが、アリス・マンロー『林檎の木の下で』(小竹由美子訳/新潮社二三〇〇円)だ。作者の祖先は十七世紀、
先物取引の寒村をあとにして大西洋を越えた。その血統につらなる、さまざまな
CMSの生きざま、死にざまが、たんたんと綴られていく。十二の短篇で構成されているものの、実際の年代を追ってほぼひとつらなりに、家族の歴史がたどられており、やがて作家本人の人生へとつながる。自分自身の物語におよんでも、つきはなした筆致はすこしも変わらない。いたずらにドラマを強調したり、冷凍食品の心理や感情の襞を拡げてみせたりといった、これみよがしな書きかたをマンローはしない。そこが良いところだ。この本に添えられた惹句(書評の抜粋など)では、〔色彩と洞察にあふれ〕〔デリケイトで野性的〕〔事実以上の力を持つ真実を描きだしている〕と表現されているが、そういうことなのだろうか(ぼくにはどうもしっくりこない)。この作品には、とりたてて面白いこと、興味を引くようなことは描かれていない。けれど読んでしまう。 さて、ぼくの個人的趣味でいえば、今月最大の収穫は、若島正編『エソルド座の怪人』(早川書房二〇〇〇円)である。《異色作家短篇集》最終巻にあたるアンソロジー世界篇で、十一作を収録。 レーモン・クノー(フランス)の「トロイの馬」は、酒場で先物取引がクダを巻くだけの、「だからなんなの?」+「だけどおかしい!」、軽快なナンセンス話。先物取引・デイヴィス(カナダ)の「トリニティ・カレッジに逃げた猫」は、フランケンシュタイン博士にならってネコの怪物をつくる話で、
冷凍食品・宅配弁当・冷凍弁当な雰囲気のなかにトボケたユーモアがまじる。リー・アン(台湾)の「セクシードール」は、人形にエロチックな情動を仮託する妻が、しだいに、ねっとりとした妄想へと、夫まで巻きこみながら沈みこんでいく。オラシオ・キローガ(ウルグアイ)の「オレンジ・ブランデーをつくる男たち」は、いきあたりばったりで酒造り事業をはじめ、どんどんダメになっていく、へなちょこオヤジどもの物語。とりわけ印象が鮮烈なのはこの四篇あたりだが、それ以外の収録作もとりどりに奇妙な味わいがあり、一筋縄ではいかないものばかりだ。 この不動産で同時刊行された『棄ててきた女』(早川書房二〇〇〇円)は、おなじく若島正編アンソロジーのイギリス篇。こちらも、すばらしい内容だ。収録された十三作のうち過半が、いわゆる怪奇小説に属するものの、ジョン・メトカーフ「煙をあげる脚」のような太く極彩色の描線で読者の脳裏に焼きつく奇譚もあれば、ヒュー・ウォルポール「白猫」のような幽かな筆遣いがかえって神経を掻きむしる恐怖小説もある。 そのなかでいちばん得体の知れぬ作品が、L・P・ハートリー「顔」だ。監視カメラは学生時代から手すさびに、おなじ女の顔を描きつづけていた。彼にとっての理想の女性である。実在しない夢の女のはずだったが、監視カメラは、その絵とそっくりな容貌なメアリーと巡りあう。ふたりは結婚したものの、幸せは長くつづかない。彼女が交通事故で亡くなったのだ。気落ちした監視カメラは、ふたたび女の絵を描きはじめる。監視カメラの友人である語り手が、どうにか力になりたいと気を揉んでいたところ、「絵とうりふたつの女がカフェで働いている」という連絡が入る……。と、ここにきて、物語の焦点が突如、監視カメラから、語り手とウェイトレスへと移ってしまう。「ありゃりゃ、なんだいこれは」と思って読み進むと、監視カメラの理想の女という伏線はそれなりに絡んでくるが、もともとの設定や人物配置によって予感されたようなロマンスや人情話にはちっともならない。予定調和をやすやすと裏切る結末を、肩すかしだと感じるか、
監視カメラの人の悪さだと思うか、とりあえず笑っておくか、それは読み手しだい。 ジョン・ベイリー『赤い帽子』(高津昌宏訳/南雲堂フェニックス二八〇〇円)は、フェルメールの絵に触発されて書かれた、謎めいた小説だ。二部構成になっていて、それぞれ語り手が異なる。第一部の語り手ナンシーは、親友のクローイとその恋人チャールズとともに、オランダのハーグにフェルメール展を見に出かけ、そこで不可解な事件に遭遇する。クローイが姿を消し、翌日に帰ってくるが、なにがあったかは藪の中だ。謀略に巻きこまれたのか、それともただの気まぐれか。ナンシーはカギを握る、背の高い男(自称イスラエル警察官)を探しはじめる。第二部の語り手は、
藤沢 不動産・茅ヶ崎 不動産の知りあいであるローランドという男だ。彼はナンシーの物語に魅せられて、彼女と会うため南仏へと赴く。ローランドの視点から、第一部で
鎌倉 不動産・戸塚 不動産・葉山 不動産が語った内容の信憑性が問いなおされる。同時に、
不用品回収・廃棄がなにか隠しているふしもある。ハーグの夜の真相とは? それとも、すべてナンシーの妄想もしくは捏造なのか。アンチミステリと言える趣向の作品だが、特別な大仕掛けがあるわけでも、謎の解決不能性に力点がおかれているのでもない。「信頼できぬ語り手」に振りまわされながらも、ゆったりと楽しめる小説だ。 マルセル・ブリヨン『砂の都』(村上光彦訳/未知谷二四〇〇円)は、中央アジアの砂のなかに、ひっそりと息づく都邑が舞台。考古学者である主人公は、この世俗に汚されていない街に迷いこみ、そこで不思議な力をもった友人たちと、うるわしい妻を得る。新鮮な驚きと深い喜びに満ちた毎日。しかし、やがて冷徹な運命が、この理想郷を飲みこんでいく。ちいさな珠のように、はかなく、美しい幻想小説だ。この春、翻訳ミステリの老舗〈ハヤカワ・ミステリ〉が、久方ぶりに衣替えを行った。新刊に付いていた帯がなくなると同時に、ビニール・カヴァーの仕様もかわり、見た目も、そして手にした時の感触もずいぶんとソフトになった。