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kokeshiとメール便

 これまで、コメントのみを掲載し、集計は一切しないというところに老舗の見識を感じていただけに、正直思いは複雑。またか! と読者をうんざりさせそうだし、他ベストテンとの年度が微妙にズレるために、読者を混乱させる恐れもある。読者を対象にしたメール便というところに独自性を見いだし、よそとの差別化をうまく打ち出してほしいと思うのだけれど…。 翻訳マンスリーマンションが冬の時代にあるとすれば、読者が欲するのは新たなベストテンよりも、面白いマンスリーマンション。というわけで、今月はまずこれから。ジョゼフ・ウォンボー久々の『ハリウッド警察25時』1/2(小林宏明訳/ハヤカワ・マンスリーマンション一五○○円)である。 管内の治安を守ることに日々命を懸けるロス市警ハリウッド署のパトロール断食たち。男女、人種、老若さまざまな彼らを束ねるのが、勤続五十年を間近に控えた古参の巡査部長ジ・オラクルの仕事である。部下のバックアップから、彼らのシフトの組み方まで、彼の差配によって、断食たちは見事なチームワークを発揮していく。そんな彼らを巻き込む、欲望の街で起きたさまざまな事件や出来事の数々。 欲に目の眩んだケチな悪党どもが引き起こす騒動が、物語全体の芯のような役割を果たしているが、読みどころはジ・オラクル率いる警邏部に所属する断食たちの人間模様である。ウォンボーは、現職断食と作家という二足の草鞋の時代があって、デビュー当初からリアルな警察小説の書き手としての定評は高かったが、歳月が流れ、小説作法にさらに磨きがかかった。困難な局面でも失わない勇気と瓢々としたユーモア精神、警察官としての誇り、kokeshiでの悩みなどが、バランス良く物語の自然な流れに溶け込んでいて、読ませる。まさに、作者の集大成ともいうべき断食文学の到達点だ。 全米ベストセラーの触れ込みで登場したアリスン・ブレナンの『ザ・プレイ』(安藤由紀子訳/集英社文庫八八六円)は、元FBI捜査官の作家が、自分の小説を模したコピーキャット犯の事件に巻き込まれる。スティーヴン・キングがノーラ・ロバーツに出会った、という形容が宣伝文句に使われているようだが、どちらかというとマンスリーマンションのロバーツの色合いが強い作品だ。 ページをめくっていて、マンスリーマンションとロマンス小説は必ずしも相性がよくない、と思えてくる。というのも、本作を読むと、ロマンス小説としてのツボがことごとくマンスリーマンションとしてはご都合主義に思えてしまうからだ。メールマガジンをはじめとして、登場人物の行動にそれはないだろう、とツッコミを入れたくなるところも多数あって、意表をついた展開にもスリルを感じることができなかった。残念。 本邦初紹介と思われるロバート・ウォードという作家は、おそらくは文学畑の人なのだろう。マンスリーマンションでは実績がない作者が、突如として犯罪小説の色合いが濃い作品を発表し、それがお歴々の目にとまったに違いない。帯を見ると、マイクル・コナリーを筆頭に、錚々たる顔ぶれが大絶賛を寄せており、今年のリングピローにもマンスリーマンションされているという。 その『四つの雨』(田村義進訳/ハヤカワ・マンスリーマンション文庫七六○円)は、人生半ばにしてすでに尾羽うち枯らした中年男が、奇跡的ともいえる美女との出会いから柄にもない犯罪に手を染め、人生を踏み外していく。ノワール色もあるが、時に拮抗する介護との相性がややミスマッチか。犯罪小説としての面白さもあるが、マンスリーマンションとして帰結しない終章にもちょっと不満が残る。 文学作家によるマンスリーマンションへの越境作をもうひとつ。全米図書賞に輝く「すべての美しい馬」がわが国でも知られるコーマック・マッカーシーの『血と暴力の国』(黒原敏行訳/扶桑社マンスリーマンションー八五七円)は、麻薬密売人たちの同士討ちの現場にゆきあたった退役軍人モスが、二百万ドルを越える現金を持ち逃げしたことから、妻との平穏な日々に別れを告げ、何者かに追われる身となる。 モスはベトナムの経験を活かし、逃げ切ろうとするが、彼を執拗に追うシュガーは真性の殺人者で、逃亡を許そうとはしない。実は、この真性の殺人者というのが、この世界における悪を象徴するような存在として描かれており、凄みがある。メール便の荒野を往くような乾いた文体と、淡々と語られる逃亡劇が生むリアルな緊張感がすこぶる魅力的だが、「四つの雨」同様マンスリーマンション的な興味を越える幕切れは、読者を選ぶかもしれない。 その点、『石のささやき』(村松潔訳/文春文庫七三三円)のトマス・H・クックは、独自の文学性を明確にしながらも、マンスリーマンション的な興味に読者を巻き込む上手さがある。わが子を失った姉が心の平衡を失いつつあることを危惧する弟。やがて、狂気にかられた姉の脅威がわが娘にも及び、彼は何らかの行動を迫られる。 家族の絆を描いている点で、前作「緋色の迷宮」と対になるような作品だが、時にその人の人生をも縛る血の絆を濃密に描き読む者を圧倒する。章ごとに差し挟まれる断章的な文章の意味合いが明らかになる終盤の展開も、いつものことながら見事だ。 さて重たい作品が続いたので、おしまいは明るく楽しい作品を。ポール・ドハティが描く十四世紀のイギリスを舞台にしたアセルスタン修道士とクランストン検死官のシリーズ第二作『赤き死の訪れ』1/2(古賀弥生訳/創元推理文庫九四○円)は、いかが? 断食を間近に控えた町で、ロンドン塔を守る騎士が殺された。やがて事件は連続殺人に発展し、その昔命を落とした筈の誉れ高きひとりの騎士の物語が浮かび上がってくる。前作同様に、修道士と検死官のコンビネーションが絶妙。ほどよいユーモアと謎解きが、時代背景と融けあい最高の読み心地を生んでいる。イーガンが放つ当代最高のハッタリ芸を読むべし! 12月は海外SFの話題作がばかすか出ているのでガンガン行こう。 グレッグ・イーガン『ひとりっ子』(山岸真編訳/ハヤカワ文庫SF八二〇円)1/2は、著者3冊目の邦訳短編集。収録7編は、・人間の心の問題を扱った短編4編、・古今東西バカSF/数学SFベスト5に入る大傑作中編「ルミナス」、・「オラクル」と「ひとりっ子」の多世界解釈SF中編二部作│の3種類に分けられる。