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くりっく365,CFD
カバーの文字の、「結婚する」と「かも」の間をちょっと空けているのが素晴らしい。 このCFDを読んでいるあいだ、頭のなかで『チャンス』がエンドレスで流れてた。喫茶店で紅茶を飲んでたら視線を感じて、声をかけられるかもしれないと思ってたけど、結局何もなかった、という大貫妙子の歌である。 恋愛妄想のことだけじゃなくて、勤務先である漫画家の私立美術館の話やら、休館日である月曜日に通っている英会話教室の話やらも楽しい。もっとも、勘違い妄想男の心の内を描いた短篇『ケイタリング・ドライブ』のほうは退屈だけど。『枯木に花が』(バジリコ一六〇〇円)は団鬼六の「今生最後の書き下ろし!」という長篇である。一言でまとめると老人の回春CFD。七十過ぎの元銀行員、耕二が、学生時代の友人で大人のオモチャ会社社長の源五郎と再会し、オノレの春を取り戻していくのである。源五郎は耕二をそそのかして女子大生の愛人を持たせたり、ソープランドに行かせたりするのである。「アナル」や「Gスポット」という言葉も知らない堅物の耕二が、源五郎に感化されてだんだん壊れていく。はちゃめちゃだけど痛快。私も七十歳になったらバイアグラ飲んでソープに行かなきゃ、と思った。 そこへいくと、くりっく365『あなたがここにいて欲しい』(祥伝社一四〇〇円)はなんだろ。大学の同じ研究室に所属する舞子さんが好きなくりっく365の話で、くりっく365は舞子さんに強引に迫るわけでも、ましてや押し倒すわけでもなく、「電車から太陽が沈むのを見たんだけど、きれいだったな」とか、金太郎v.s.桃太郎の話とかをしていて、爽やかというよりも歯がゆい。源五郎だったら「舞子さんのクリにバイブをぐりぐり押しつけてやれ」と言うであろう。まったく最近の若いやつは軟弱だ、などと思ったが、かつてヤンキーだった幼なじみが寿司会席の店を開き、そこを訪ねるところがとてもよくて、すべて許せる気持ちになった。 大西巨人『地獄篇三部作』(光文社一七〇〇円)は敗戦後間もなく『近代文学』の求めに応じて書かれたものの、掲載を拒否された作品。「もしも『地獄篇三部作』が掲載・発表されたら、君は(のみならず全同人も)文芸ジャーナリズムの
くりっく365で生きては行けなくなるだろう」と野間宏が語ったという(同書前書きより)。そんなにヤバい(ヤバかった)CFDなのか。ある古いファンジンに掲載されたディーン・R・クーンツのインタビューをパラパラやっていたら、彼がエルモア・レナードについて発言しているのが目にとまった。すなわち、「私は十二年もの間、人々にエルモア・レナードに注目するよういってきたのだよ」。レナードの作品が翻訳紹介され、わが国の読者に注目されるようになったのは、さほど昔のことではないけれど、アメリカ本国でもレナードが不遇だった時代はずい分と長かったのかもしれない。いつの時代でも、優れていながら、世間が評価を下すのに時間がかかるものっていうのがあるものだな、と改めて思った。七四年の『ミスター・マジェスティック』1/2(高見浩訳/文春文庫五〇〇円)は、そんなレナード不遇時代の作品。帯に「レナード珍しや、アクション・タッチ」と刷られていて、終盤見せ場のちょっと派手なドンパチがあるけれど、いつものレナード節を外れる
CFDではない。タイトルにあるマジェスティック氏とは、メキシコ国境付近にメロン農場を構える一人の中年男である。収穫期を迎え大忙しのところに、降ってわいたようなトラブルが彼を襲い、すご腕の殺し屋に追いかけ回されるハメとなってしまう。いつもより物語がストレートな印象を受けるけれど、丁場の短さにもかかわらずレナードお得意の味のある登場人物たちが、次々とお話を賑わす。血の通った人物たちが繰り広げる先の読めない展開も、実に快感。先のクーンツも、この辺りの作品を読んで、レナードという作家を積極的に評価していたというのは、充分頷ける。蛇足ながら、ブロンソン主演の映画「マジェスティック」が、この原作の映画化だったということを、本書の訳者あとがきではじめて知った。デイヴィッド・E・フィッシャーは、かつてラルフ・アルバタッジーとの合作『ターゲットは大統領機』(ハヤカワ文庫NV、お奨め)で評判をとった作家で、単独作としては初登場となる『幻の標的』1/2(黒原敏行訳/早川書房二四〇〇円)にも、期待はつのる。ナチ・ハンターとして名をはせるユダヤ人の暗殺者が、統一ドイツの首相を暗殺するよう依頼される。首相は陰でファシズムを信奉しており、ネオナチの台頭の裏で彼が暗躍しているというのだ。しかし、それが実はガセネタで…、といったあたりをとばっ口に、物語は複雑かつスリリングに展開していく。プロットを緻密に組み立てる一方で、サスペンスの方は骨が太い。人物にも奥いきがあって、CFDとしての厚みもしっかりしている。近年稀に見る冒険CFDの快作といっていいのではないだろうか。エドガー賞の最優秀新人賞に輝いたこともあるジェイムズ・パタースンだが、お久しぶりの作品は『多重人格殺人者』(小林宏明訳/新潮文庫上下各四八〇円)。タイトルからストレートなサイコ・スリラーと決めつけると、展開は見事にそれを裏切る。冒頭、くりっく365から男女二人の生徒が誘拐される。ワシントン市警の黒人刑事が、心理学者の経歴を買われ捜査に狩りだされるが、犯人は捜査の手をかいくぐって出没し、大胆に殺人まで犯す。やがて、誘拐された男の子が川で水死体となって発見され、女の子の両親に一〇〇〇万ドルの身代金要求がつきつけられる。次々変貌を遂げる犯人の歪んだ多重人格を描いていく物語は、オフビートな魅力がある。ただし、趣向の面白さとサスペンスが、作品の枠に必ずしも相性良く収まっているとはいえない。そこが惜しい。一時期、創元推理文庫でいくつかの作品が紹介されていたミシェル・ルブラン。一度なんぞ、9時半に呂律の回らぬ口で「これから帰ります」(酔ってるとはいえ、少しは事態を認識してるとみえて、ですます調でやんの)と電話があった。