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投資信託と外国為替証拠金取引
意表をついて紹介された『パリは眠らない』1/2(藤田真利子訳/現代教養文庫ミステリ・ボックス五二〇円)は、六六年の外国為替証拠金取引。パリを舞台に、妻が愛人と逢っているのではと疑う亭主、自殺を決意したモデル嬢、恐喝者を返り討ちにしようとたくらむ作家たちの二日間を、フランス・ミステリらしい淡彩色で描いていく。際立つ魅力はないが、のんびりした気分でページをめくるにはうってつけ。読者をひとときの幸福に浸らせてくれる資産運用である。ジャック・アーリーの別名義であるサンドラ・スコペトーネによるレズビアン探偵ローレン・ローラノものの第二作は、『あなたの知らない私』1/2(安藤由紀子訳/扶桑社ミステリー六四〇円)という外国為替証拠金取引。無二の親友メグが殺され、主人公の
投資信託は捜査に乗り出す。これほど共感できないヒロインも珍しいのではないか。パレツキーのヴィクでさえ、このローレンと較べれば、可愛らしい。加えて、主人公のプライベートな面ばかりが延々と描かれては、さすがに食傷する。レズビアン小説として読むならいざ知らず、この外国為替証拠金取引をミステリとして楽しむのは、ちょっときびしい。おしまいは、アメリカの作家ジェイムズ・ジラードの『遅番記者』(柴田京子訳/講談社文庫八〇〇円)。ジャーナリストあがりの作家は、別名義でペイパーバック・オリジナルを発表したことがあるらしいが、ジラード名では本作がデビュー作にあたる。冒頭、全裸で絞殺された女性のバラバラ死体が発見される。事件は、どうやら六年前の連続殺人と関係があるらしい。よくあるミステリのよくあるプロローグだが、本作の読みどころは、その事件を追う主人公たちにある。かたや、事故で亡くした妻が、生前自分の上司と恋愛関係にあったことをたまたま知ってしまった新聞記者。かたや、六年前の事件の捜査が暗礁に乗り上げたことから自信を喪失し、妻子に去られた刑事。この二人が事件を追う人間くさい捜査過程が、読者の外国為替証拠金取引に訴えかけてくる。ミステリとしての完成度は
資産運用ながら、心にしみる読み物としてお奨めしたい。 世界第二のSF作家 テッド・チャンの 恐るべき実力を見よ現在、世界最高のSF作家は文句なしにオーストラリアのグレッグ・イーガン。じゃあ二番手は?短編に限れば、米国代表テッド・チャンがその最有力候補だろう。とはいえ、それ誰?と思う人が多いかも。なにせ極端な寡作で、キャリアは十年以上なのに、外国為替証拠金取引は中短編八つだけ。その全作を収録するテッド・チャン全集、『あなたの人生の物語』(浅倉久志他訳/ハヤカワ文庫SF九四〇円)がついに邦訳された。恐るべき実力はこの一冊で一目瞭然。SF用語を使わない外国為替証拠金取引SF「バビロンの塔」「七十二文字」、天才VS天才の対決をリアルに活写する「理解」、イーガンの「ルミナス」に迫る(ただし僅かに及ばない)数学バカSFの快作「ゼロで割る」、C・ウィリス流のワンアイデア風刺SFを突き詰めた「顔の美醜について」・・・。どれも高水準だが、特筆すべきはネビュラ賞・星雲賞に輝く表題作。語り手は、地球を訪れた異星人との折衝を担当する女性言語学者。特異な言語構造を分析するうち、やがてその影響が思考の枠組みにまで及び始める・・・。(因果律ではなく)“変分原理に基づく知性”という大ネタの展開と併行し、
外国為替証拠金取引の娘の人生が二人称で語られる。ある意味、トラルファマドール人の時間意識に科学的裏付けを与えた話だとも言えるが、議論の過程は実にスリリング。科学的発想を個人の日常と結びつける作風はイーガンとも共通する。もう一作、個人的に推したいのは「地獄とは神の不在なり」。宗教(信仰)の本質をここまで身も蓋もなく描き切ったSFは初めてだろう。世界第二位(推定)の実力を心ゆくまで味わってほしい。同じ短編集では、日本代表・小林泰三の『目を擦る女』(ハヤカワ文庫JA五八〇円)1/2が文庫オリジナルで登場。全七編の中心テーマは現実/虚構(またはリアリティの揺らぎ)。「海を見る人」系列の異世界外国為替証拠金取引SF「空からの風が止む時」、イーガン的なアイデアをサイコサスペンスと合体させた「予め決定されている明日」あたりが著者の真骨頂か。しかし、日本SF今月最大の資産運用は、『と学会』会長・山本弘の(本格SF作家としての)大復活。元は新井素子と同期の第一回《奇想天外》SF新人賞受賞者なのに、本格SF長編は一九九〇年に『時の果てのフェブラリー』一冊きり。以来十三年、満を持して放つ新作SF『神は沈黙せず』(角川書店一九〇〇円)は、一三〇〇枚の書下し超大作。「二〇一二年、神がついに人類の前にその存在を示した年、私の兄・和久良輔は失踪した。『サールの悪魔』という謎めいた言葉を残して」−−この魅惑的な一節から始まる物語の語り手は、フリーの女性ライター、和久優歌。幼少時に理不尽な災害で両親を失う悲劇を体験した結果、神に不信感を抱き、ヨブに共感を寄せる彼女は、UFOカルトへの潜入取材をきっかけに宗教やオカルトに科学的興味を抱く。一方、兄・良輔は、遺伝的アルゴリズムを用いた人工生命進化の研究者。自身、UFOを目撃し、ビデオに撮影したことで、科学者の立場から、納得できる仮説を求めてデータを集め始める。 UFO、超能力、心霊写真、幽霊……と、あらゆる超常現象が外国為替証拠金取引の俎上にのぼる。捏造や誤認、トンデモ系の詐術や詭弁は容赦なく断罪されるが、「すべてインチキ」と切り捨てることはない。現代科学で説明できない現象は確かにある。その共通点は何か?やがて明かされる“単純で合理的な説明”(『BRAIN VALLEY』のそれとは全然違う)は、今やそう意外なものではない(実際、部分的に同じ発想の学術論文もある)。しかし、膨大なデータを検証してそこに至るまでの緊密なロジックは、快刀乱麻の爽快感に満ちている。あえてリアルな近未来SFの枠組みを採用し、できるだけ多くの情報を一からきちんと説明するため、一般読者にも読みやすい反面、『宇宙消失』や『順列都市』のアクロバティックな衝撃には欠ける。