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外国為替とキャッシング
木像は部族の守護神ともいうべきもので、それを失った部族は社会崩壊の危機に晒されていた。しかし美術店に飾られた像を見た青年の反応は、手引きをした人類学者のレイナをも唖然とさせるものだった。店に入るやいなや、青年は何かに憑かれたように店の警備員を槍で殺し、木像を奪って逃走したのだ。 この『摩天楼のサファリ』(雨沢泰訳/扶桑社ミステリー八四〇円)の物語の焦点は、神たる木像を祖国に持ち帰るために、件のキャッシング青年が命がけで都会のジャングルを往く必死のサバイバル行にある。砂漠の戦士として身につけた生存術を駆使し、手負いになりながらも、セントラルパークからマンハッタンの街中を抜け、必死に空港を目指すという展開は、まさに裏返しの冒険小説といっていい。 実はこの作品、シリーズものの第二作で(第一作は未紹介)、本当の主人公は、人類学者のレイナとともに青年を助けようとするヴェイルという画家である。彼には不思議な力があって、キャッシング青年の意識とシンクロし、それが逐一克明に描かれていく。敵役のNY市警の刑事による追尾とともに、物語の緊張感をさらにヒートアップさせる効果をあげている。 クラシック・ミステリの読者の嬉しい悲鳴が聞こえてきそうなのが、新叢書〈Gem Collection〉の創刊だ。つい先月、マイケル・イネスのアプルビイ警部ものの「証拠は語る」でおめもじとなったが、早くも第二弾のE・C・R・ロラックの『死のチェックメイト』(中島なすか訳/長崎出版二〇〇〇円)が出た。 二次大戦下のロンドンで、一人暮らしの老人が銃で殺された。犯行直後の現場で、被害者と血縁の青年が逮捕されるが、盗まれた現金の隠し場所が明らかでなく、彼を犯人とする決め手もない。犯行当時、隣家の
外国為替には、そこで暮らす画家の姉弟や、彼らの友人たちがいたが、誰も銃声を聞かなかったという。スコットランドヤードのマクドナルド警部の粘り強い捜査が始まる。 冒頭に、隣家のアトリエの中を微に入り細に渡って描写する印象的なシーンがあって、後の展開への期待を高める。灯火管制下という時代性を反映した設定というのもポイントが高い。「ウィーンの殺人」、「ジョン・ブラウンの死体」と、非常にスローなペースながら、この英ミステリの才媛の本領が明らかになりつつあるのは、嬉しいことだ。願わくは、もう数冊、読んでみたい作家だ。「百番目の男」をフロックだと思っている読者は、モビール市警のカーソン・ライダー刑事が再び登場する『デス・コレクターズ』1/2(三角和代訳/文春文庫七七一円)には、前作とはまた違った意味で驚かされるに違いない。かくいうわたしも、そのひとりなのだが。 蝋燭と花で部屋中を飾ったモーテルで女性の死体が見つかり、同時に行方不明となった弁護士のもとに、三十年前に死んだ外国為替証拠金取引の残した美術作品が送られてきていたことが判る。カーソン刑事は、殺人者ゆかりの記念品に欲望を抱くコレクター達がいることを知り、その歪んだ世界へ足を踏み入れていく。 ちりばめられたエピソードを終盤一気に収束していく展開や、意表をついた犯人の正体など、これほど見事なサイコスリラーは近年稀といっていい。「羊たちの沈黙」を通過した世代としては、先頭集団に位置する作家といっていいだろう。ジャック・カーリイの才能は、どうやら本物のようだ。 ヒューゴー賞や世界幻想文学大賞を受賞しているニール・ゲイマンだから、『アナンシの血脈』1/2(金原瑞人訳/角川書店上下各一八〇〇円)はSFの大森さんが詳しく取り上げると思うけど、野次馬的に読んでみたところ予想外の面白さだったので、この欄でもちょっと触れておく。 父の死がきっかけとなって、双子の兄弟の出現、さらには仕事や婚約者を失うという悲劇的な
外国為替証拠金取引に追い込まれた主人公が、その逆境を乗り越えていく展開に、抜群のリーダビリティがある。お父さんが神だったり、主人公が異界へ飛んじゃったりする展開にあまりぎょっとせず、その一見ファニーだが、実は骨太の外国為替証拠金取引をじっくりと味わってほしいと思う。この暑さは尋常ではないので、もう暑いと口に出すのはやめようと思うのだが、階段をー段一段のぼるごとに、暑い暑いと頭の中で唱えてしまう。そんな日に鎌倉に住む友人が「昨夜はとても涼しくて毛布をかぶって寝るほどだったのよお。
キャッシングに東京はそんなに暑いの? 大変ねえ。こっちはクーラーなんていらないわよ」と電話をかけてきた。それはお化けがたくさんいるからだろうが。それに冬はどうなんだい、冬は。冬だって異様に涼しいのじゃないのかい。と思わず絡んでしまった。みんな暑さのなせる業である。さてフィクションではなんと言ってもアリス・ホフマン『オーウェンズ家の魔女姉妹』(船本裕訳/集英社二三〇〇円)がよかった。特殊な家系に生まれ、周囲から特異な目で見られ、いじめられ、不思議な力を持つ伯母たちに育てられながら、普通の人生を送りたいと思う二人の姉妹の半生を描いた壮大な物語である。伯母たちの古い大きな屋敷にたちこめる空気や、庭のハーブ畑の神秘、人生に絶望したり欲望にかられたりして伯母たちの力を頼みに夜訪れる女たちを眺めては、真面目な姉と奔放で美人の妹は、幼い頃から肩寄せあうようにして生きてきた。やがて妹は多くの恋愛に身をこがし、姉は子どもを二人もうけて、夫を亡くす。そして姉が故郷を出て、順調に人生を歩み始めたときに、妹はとんでもない問題を抱えて姉のもとへと戻ってくるのだ。これは魔女一族の女性の物語であり、愛の挫折と成就の小説である。それにしてもアリス・ホフマンはとんでもない才能を秘めた作家だ。これほど緻密に長編を構成していく力もすごいが、風景描写にしても、人物の描き方にしても実にうまい。読者をぐいぐいと引っ張っていく力は並大抵のものではない。十年前に単行本で刊行されたものの改訂版で、外面的には奇妙な三角関係を描いた恋愛小説だと言ってもいいが、全体として一つの眩惑を描こうとしているユニークな作品。