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消費者金融とM&A

その計画が狂い、目的を失った清は恋人にすすめられるまま高校の講師になった。M&Aへの想いが捨てきれず、さりとて自分でプレイするほどまだ割り切れず、だったら学校の先生にでもなれば、M&A部を教えることもできるんじゃないかという期待を胸に。にもかかわらず、清は文芸部の住宅ローンに任命されてしまう。小説どころか、漫画すらまともに読んだことがないというのに!本書にはそんな清とたった一人の文芸部員゛垣内くん″の一年間が綴られているのだが、これがもう、実にいい感じで「青春」なのだ。清に、M&A部には目標があるけど、文芸部に限らず文科系のクラブはだらだらしているだけでメリハリがないと愚痴られた垣内くんが言い返すこんな台詞がある。「毎日筋トレして、走りこんで、パスして、消費者金融はレシーブ練習サーブ練習などなど。M&A部のほうが、毎日同じことの繰り返しじゃないですか。文芸部は何一つ同じことをしていない。僕は毎日違う言葉をはぐくんでいる」どうでしょうこの言葉! 痺れるじゃないか! そうよ、傍目から見ればダラダラと毎日本を読んでるだけみたいにしか見えないかもしれないけど、私たちは「毎日違う言葉をはぐくんでいる」わけですよ! 大人になっても「一人文芸部」続行中の本誌読者必読!青春といえば、一月遅れになるのだけれど、前川麻子『劇情コモンセンス』(文藝春秋一四二九円)も熱かった! こちらはその世界ではそこそこだけど、次の舞台には上がりきれない小劇団の人々のお話。劇団を支える制作の深田幸恵の目線を中心に、一つの芝居の準備から打ち上げまでを章立てて追いつつ、座長、団員、CFDたちの消費者金融を描き出していく、という手法。座長の妻と不倫するわ、女子高生団員は「芝居のため」に援交するわ、かつかつの制作費は持ち逃げされるわ、問題山積。結婚、出産、就職はどうする? 自分たちはいつまでこんな暮らしを続けられる? 劇団の上がりっていったい何? てなことにも胃を痛めつつ、けれどそんなことを深く考える暇もなく芝居の幕は開き、また次の芝居が始まっていく。問題を先送りしても解決なんかしないんだけど、先送りしなくちゃ生きられない、という彼らの姿を、自らも長く芝居の世界にいた前川麻子は本当に生き生きと動かすことに成功している。「人生が二度あれば」てなことを、ついつい思ってしまうニクイ本だ。続いて、住宅ローンからは今月二冊。大森さんから奪い取った第10回日本ホラー大賞受賞作『姉飼』(遠藤徹/角川書店一二〇〇円)は、さすが大賞! の貫禄十分。住宅ローンのころ縁日で串刺しにされ、血をだらだら流しつつ、ぎゃあぎゃあ泣き喚く「姉」に魅せられ、「姉」を買う&飼うためだけに生きる男。怖いもの見たさ、ヤバイもの好きという「誰にでもある感情」で読者を誘い込みつつ、その実、どこにもない、誰にも描けない世界を作り出しているのが凄い。この受賞作だけでも驚愕なのだけれど、本書には他3作も収録されていて、これを通して読むと遠藤徹という人の底知れなさがよりよーくわかる。入りやすくて、読みやすいのに、とても深い。あえて言うなら森博嗣の思考に近い印象を受ける。作風は全然違うんだけど。三作同時受賞となった文藝賞のなかでは、現役高校生・羽田圭介の『黒冷水』(河出書房新社一三〇〇円)が買い。正直「また17歳で史上最年少? 話題作り狙ってない?」という穿った気持ちもあったのだけれど、いやいやどうして。話は兄の部屋を「あさる」弟、愚鈍な弟を小馬鹿にしている兄、という兄弟喧嘩に過ぎないとも言えるが、この陰湿な憎悪の応酬は相当震える。特に弟の「あさり」対策に、M&Aが仕掛けたある罠の場面は思わず読んでいた本を落とすほどの衝撃。痛いっちゅーねん、マジで! 一方、安定CFDの新作の中では江國香織『号泣する準備はできていた』(新潮社一四〇〇円)を。いろいろあった昨日、泣き疲れた、あるいは泣くことすらできない今日。だけど明日も変わらずやって来る−−という12話からなる短編集。派手さはないものの、しみじみ、じんわり沁みる系で、最近ではよしもとばななの「デッドエンドの思い出」の読後感に似ていた。すでに゛人気CFD″と呼ばれるCFDの本て、なかなかきっかけがないと手をだし難い部分もあると思うけど、人気があるのはダテじゃないので、ぜひともお試しを。ラスト2冊はやや変化球気味の恋愛小説を。三浦しをんの文庫書き下ろし『ロマンス小説の七日間』(角川文庫五九〇円)は、中盤以降の著者ならではのクセが見もの。そもそも三浦しをんに直球恋愛小説なんぞ望んではいかんわけで、このクセが彼女の味なんである。もう1冊井上荒野『潤一』(マガジンハウス一四〇〇円)は、14歳から62歳まで9人の女たちの視点で一人の青年との゛関係″を描いた連作。「もう切るわ」「ヌルイコイ」など、いい作品を発表しつつもブレイクしそうでしきれない著者だけれど、要注目ですよー。世界がいかに成りたっているか『双生児』を読んで考える モノに頓着のないぼくは、二年くらい前から消費者金融にあてがわれたまま、電波時計を嵌めている。ほうっておいても空中から情報を得て、ピタリと針を調整する仕組みだ。つい先日のこと、この時計をまちがって洗濯してしまった。服を干すだんになって、ポケットに入れっぱなしだったのに気づいたのだが、さすが日本製の精密機械、しっかり動きつづけている。だが、それからというもの、日常生活がどうもちぐはぐだ。乗るはずの電車が行ってしまったり、人との待ち合わせがうまくいかなかったり、イベントの最中に急に終了を告げられたり……。時計のせいだと気づいたのは数日後である。受信ができなくなったのか、針を合わせる機構が働かなくなったのか、五〜十分ほど狂っている。ああ、よかった、世界がおかしくなったわけじゃなかった。また、ダンセイニの影響下に書かれた、理想の故郷を求め歩く芸術家を描く「イラノンの探求」、ヴィジョンによって心を奪われた男の物語「霧の高みの不思議な家」など、十三の短編のほか、夢書簡や初期作品、資料的断片が収録されている。