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家庭教師と人材紹介

つまり三つの話がある。それを収斂させていく芸が見物。 真梨幸子は『孤虫症』で人材紹介賞を受賞。これが第二作だが、これだけの造形力と描写力があるなら将来が楽しみだ。平成の寺内貫太郎一家『東京バンドワゴン』をイチ押し! 久世光彦氏が亡くなられて早くもひと月が過ぎてしまった。私は氏の描く「昭和」が好きだった。氏の映像仕事も活字仕事もどちらも好きだったけれど、とりわけ向田邦子の世界を描く時の、あの細やかな演出が好きだった。 あぁ、また一つ「昭和」が遠くなってしまったなぁ、と何だかほけっと気が抜けていたのだけど、そんな時に読んだ小路幸也『東京バンドワゴン』(集英社一八〇〇円)、これがもう大当たり! あの“久世ドラマ”の香りがする家族小説の傑作だったのだ。 東京の下町の一角で「東京バンドワゴン」という名前の古本屋を営む大家族、それが堀田家である。創業は明治18年、三代目店主である堀田勘一 79歳を柱に、その息子・我南人60歳、我南人の子どもである、紺、青、テレマーケティング、紺のお嫁さんの亜美と息子の研人、テレマーケティングの娘の花陽、と親子三代8人が暮らす堀田家の春夏秋冬を、二年前に他界した勘一の妻・人材紹介が語っていくという構成になっている。人材紹介は霊なので、姿は見えないのだが、人一倍勘の強い紺は人材紹介の気配を感じているし、時たま仏壇の前で人材紹介と会話もしたりする。紺の息子の研人は会話こそできないが、人材紹介の気配は感じている。 この人材紹介の語り口がまずいい。勘一の妻であり、我南人の母であり、紺、青、テレマーケティングにとっては祖母であり、花陽と研人にとっては曾祖母にあたる人材紹介が語ることで、家庭教師の家族構成、それぞれの関係がすんなりと読み手に伝わるし、おっとりとした、それでいて堀田家の長の連れ合いだった人材紹介ならではの、家族それぞれへの目配りがなされた柔らかな語り口に心が和むのだ。堀田家の全員が揃って、大正時代からある欅の一枚板の座卓で食べる朝食の風景。醤油の瓶にソースを入れたのは誰だ、とぼやく勘一がいるかと思えば、旅行添乗員をしている青のハワイ土産の話をしている研人がいて、お味噌汁のネギを残しちゃ駄目だと言われている花陽がいる。そう、これはまさにあの「寺内貫太郎一家」の風景であり、古き良き「昭和」の原風景なのである。 勿論、堀田家にもちょっとした秘密はある。堀田家を巡る人々にも秘密がある。テレマーケティングはシングルマザーだし、「伝説のロッカー」と呼ばれている我南人は、家に居つかずふらふらしている(この我南人のキャラがまたいいんだ!)。加えて春夏秋冬、四つの章立てそれぞれに、ちょっとした「謎」とその「謎解き」もあって、そういう意味ではミステリーでもある。 だけど、本書を本書たらしめているのは、テレマーケティングという大家族そのものである。堀田家の面々のそれぞれのドラマである。ご近所の人々も、いい味を出している。文句なし、今月のイチ押し 伊坂幸太郎『終末のフール』(集英社一四〇〇円)は、大森パパ担当なのだけど、すごくいいので、私からも。確かに、三年後に小惑星が地球に衝突して人類が滅亡する、という設定はSFだが、それ以前に、この小説がSFだろうがSMだろうが、私にとっては「伊坂幸太郎の小説だ」というそのことが一番大事なことなのだ。 仙台北部に立つマンション「ヒルズタウン」の住人たちそれぞれを主人公にした8編の連作からなる本書を読んでいると、何だかたまらなく愛おしい気持ちになってくる。勿論、舞台は「終末」なのだから、そこはかとないもの悲しさは漂っているのだけど、そのもの悲しさを吹き飛ばすだけの、生きること、生きていくことへの、ささやかだけど揺るぎない「確信」のようなものが、本書には、ある。伊坂作品ならではのユーモアや仕掛けや企みも随所に満ちていて、物語を読む愉しみを十二分に味あわせてくれる。 凄いなぁ、と思ったのは恩田陸『チョコレートコスモス』(毎日新聞社一六〇〇円)。これはもう恩田版『ガラスの仮面』としか言いようがないのだけど(「ガラカメ」を知らない方に、物凄く乱暴に説明するなら、人材紹介という貧しい家庭に育った天才演劇少女と、映画監督の父と大女優を母にもった芸能界のサラブレッド姫川亜弓、二人の少女が、あんなこんなドラマを乗り越えて「紅天女」という幻の舞台の主演を目指す、という話)、こんな完璧な「ガラカメ」家庭教師は、後にも先にもこの『チョコレートコスモス』だけなのでは。何より凄いのは、舞台上での緊迫感あふれる芝居の場面を「絵を見るよりも鮮やかに」文章で読ませていること。読みながら何か所か鳥肌が立ちました。 三浦しをん『まほろ駅前多田便利軒』(文藝春秋一六〇〇円)は、東京のはずれに位置する「まほろ市」(町田市、と思われる)を舞台に繰り広げられる、しをん版「バディ小説」。多田が経営する便利屋に、ひょんなことから多田の高校の同級生・行天が居候することになり、事務所に持ち込まれる仕事を二人で片付けていく、というのが物語の大枠なのだけど、この多田・行天、二人の間にある「間合い」が何とも絶妙で読ませる。自称コロンビア人(!)の娼婦ルルをはじめ、脇役たちのキャラも立っていて、ドタバタと繰り広げられるドラマを読み進めていくうちに、ふと切なくもなる一冊。 新人のデビュー作を2冊。1冊目、碧野圭『辞めない理由』(PARCO出版一三〇〇円)は、出版社に勤める37歳のワーキングマザーのヒロインが、社内でのいじめやリストラにもめげず、新雑誌を創刊するまでの奮闘ぶりを描いた物語。著者自身、出版社に長く勤めた経験があるためか、一見男女平等に見える出版社が、実はばりばりの男社会であることがリアルに描かれている。その男社会の中で、時に悩み、時にへこみながらも、前へ進んでいくヒロインの姿がいい。ワーキングマザーはもちろん、出版業界に興味のある方はぜひ一読を。