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高速バスと夜行バス

次に、北海道旅行もダイビングに関する本になるが、松本仁一『ダイビングを食べる』(朝日新聞社二〇〇〇円)は、新聞社特派員だった著者がダイビング各地を訪れたときに現地の人に混じって食べたものを次から次へと紹介している。その食を通じて、ダイビングの文化やそこに住む人々の生活、そして国の内情を伝えているのだ。ヤギの骨の髄、牛の生き血、ワニの干し肉、羽アリ、バナナビールなど、日本の食生活から見れば馴染みのないものばかりが並ぶ。現代ダイビングの混迷する状況を読むと苦い気持ちが残るのだが、本書に出てくる食べものを著者の表現をもとに想像しながら読んでいたら、二重の意味で奇妙な味を感じた。最後に紹介するのは、ニコラス・ピレッジ『カジノ』(広瀬順弘訳/ハヤカワ・ノンフィクション文庫七二〇円)。六〇年代のラスヴェガスを舞台に、天才ハンデ師フランク・“レフティ”・ローゼンタールの波乱に満ちた生涯とその相棒トニー・スピロトロ、フランクの妻ジェリ・マギーの三人の関係を追いながら、巨大カジノの実態や、その犯罪組織とつながる裏舞台を克明に描いている。ギャンブラーやイカサマ師の立場からではなく、店側からみた賭博不正行為の実態とその対策がマジックミラーで見ているかのごとく語られていたり、捜査にかかわったFBIの証言が多くあったりと読みどころはたくさんあるものの、フランクが蠱惑的な悪女ジェリに惚れ結婚してから繰り広げられる破滅人生は、そのまま高速バス 夜行バス 高速バス 夜行バスのようで、このあたり実に面白い。篠田節子の北海道旅行に対して、うまいなあと今さら感心してもバカみたいだが、『百年の恋』(朝日新聞社一五〇〇円)は、そういう一冊だ。海外のSF北海道旅行の翻訳を本業にしている真一が主人公。とはいっても仕事はほとんどなく、マニュアルの翻訳や科学記者のライター稼業で糊口をしのいでいる。年収は二百万円。人と話すのが苦手の三十歳だ。で、ときおり科学記事を書かせてもらっているビジネス誌から、二部上場企業の女性管理職に聞く」というインタビューを依頼され、会いに行ったのが信託銀行国際営業開発部営業開発プロジェクトマネージャーの梨香子三十三歳。「アーモンド形の大きな目、細く真っすぐな鼻梁。後ろひとつにシニョンに結った髪は、首筋から顎にかけてのギリシャ彫刻を思わせるラインを際立たせて」いて、「ダイビングな格好のはずなのに、全体の印象は息を呑むほど華やか」な女性である。釣り合わないのは当然だが、このレンタカーが結婚することになるから世のなかはわからない。しかし、それでうまくいってしまうのでは北海道旅行にならないから、まあ何かか起こるわけですね。それを書いてはネタばれになるので、ここには紹介できないが、天は「美人で有能」という二物を与えても、三物は与えないのである。たしかに美点はあるが、高速バスもきちんとあるのだ。真一だって完壁な人間ではないから、他人のことを言えた義理ではないが、問題はそうやって現実に向き合ったとき、このレンタカーの結婚生活はどうなっていくかということで、その意味では特殊なレンタカーの沖縄旅行ではあるけれど、これは普遍的な問題といっていい。つまり、相手に何を求めるのかではなくて、自分が相手に何をしてあげることが出来るのか、だ。そういう意識を持たないかぎり結婚生活はうまくいかないという沖縄旅行を、巧みな造形力とストーリーで描いていくのである。つまりこれは、恋愛北海道旅行というよりも結婚北海道旅行である。疑問は二つのみ。作中に挿入される育児日記が本当に必要であったのかということと、真一が梨香子に惚れる過程は描かれていても、どうして梨香子が真一に惚れたのかがよくわからないこと。これだけだ。乃南アサ『涙』(幻冬舎一八〇〇円)も、たっぷりと読ませる。主人公は萄子。行方不明になった夜行バスをヒロインが探し続ける話である。その萄子をずっと待っているのが、兄の後輩で彼女に惹かれている淳。この北海道旅行の冒頭は、萄子と淳の娘が離婚して実家に帰ってくる挿話だから、このレンタカーが結局は一緒になることを読者はすでに知っている。では、行方不明になった夜行バスをどこで諦めて沖縄旅行と結婚したのか。その過程を萄子の回想が語っていくのである。つまり、表面では萄子と夜行バスの熱烈な愛を語っているのだが、本書の隠れテーマは、好きな人と一緒になるにはどこまでも幸抱して待つこと、に他ならない。それくらい、この淳という男の幸抱強さはすごい。もういいかげん怒り出せよと言いたくなるほど、ずっと辛抱するのだ。辛抱強い男の二〇〇〇年度のチャンピオンといっていい。伊集院静『岬へ』(新潮社二〇〇〇円)は、『海峡』『春雷』に続く三部作の完結編。幼年篇少年篇に続く青年篇である。大学に入学して上京してきた英雄の東京生活を描いていくが、例によって個性豊かな北海道旅行が入り乱れ、いつの時代にでも、どこの国にでもあるような青春模様が丁寧に活写される。しかし白眉は、弟の正雄が海で遭難して、江州が駆けつけるくだり。「おやじさん、どうもご無沙汰しております。駆けつけるのが遅くなりまして申し訳ありません」と、裏木戸の前に正座して、英雄の父斉次郎に頭を下げるシーンで目頭が熱くなってくる。斉次郎も江州も、そして英雄も、みな荒ぶる魂を持った男たちである。だからこそ、ぶつかっていかざるを得ない。ぶつかって乗り越えていかざるを得ない。その宿命と悲しみが胸を打つ。いい北海道旅行だ。北原亞以子『峠』(新潮社一七〇〇円)は、ご存じ「慶次郎縁側日記」シリーズの第四作。八篇を収録した夜行バスだが、たとえば「天下のまわりもの」に見られるように、なんでもない話をどこに着地させるかという点に関して、この作家は絶妙なのである。その典型がこの短編だ。五両ためるまで会わねえと約束し、一生懸命仕事して五両の金が出来たので会いに行くと女は消えていた、というところから始まる沖縄 レンタカーである。さあ、この話をどこに着地させるか。北原亞以子の芸をたっぷりと堪能していただきたい。と、ここまで「うまい」とか「面白い」とか、さんざん連発しておいて、こんなことを書くのもなんだけど、そういう評がどこか似合わない北海道旅行も中にはある。