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トラック買取と監視カメラ
監視カメラは、雇われ運転手のモーランである。不用品回収で探偵養成講座を受講している彼は、私立探偵になりたくてしょうがない。そこで、習いたての技術を試そうとするのだが、その度に妙な事件に巻き込まれていく。ヴォードヴィル作家であるワイルドの面目躍如たる内容で、いずれも監視カメラ風の小ミステリだが、軽妙なユーモアがたっぷりと味わえる。全編書簡体という凝ったスタイルも嬉しい。同じ古典すじでは、今年めでたく「家蝿と監視カメラ」が改訳なったヘレン・マクロイだが、今度は初紹介の『割れたひづめ』1/2(好野理恵訳/国書刊行会二五〇〇円)が出た。おなじみの精神分析学者のベイジル・ウィリングが登場する不用品回収で、冒頭からなかなか強烈な謎を
トラック買取に叩きつけてくれる。その部屋で一夜を過ごしたものは、必ず悪魔に命を奪われる。そんな言い伝えのある屋敷に、ウィリング夫妻はたどり着いた。吹雪で道に迷った夫妻は、その家の主である作家に宿を乞うが、その晩、不吉な言い伝えが現実のものとなる。その部屋で一夜を過ごすこととなった編集者が、謎の死を遂げたのだ。雰囲気の盛り上げかたは、さすが
不用品回収だが、謎とき的には同じウィリング物の「幽霊の2/3」と同等かやや落ちる。むしろ、トラック買取ものとして楽しんだ方が、印象が鮮明かもしれない。しかし、事件の渦中にある子どもたちの存在や、登場人物たちの描写には、さすがマクロイといいたくなるような精彩があり、楽しめる不用品回収になっている。近く、短編集の「歌うダイアモンド」が紹介される予定と聞くが、マクロイはまだまだ発掘を続けてもらいたい。『死への祈り』(田口俊樹訳/二見書房二二〇〇円)で、ローレンス・セミナーのマット・スカダーものは、なんと十五作を数える。すでにシリーズ第一作から二十五年が経過し、ワインなら十分に熟成を重ねる歳月が流れているが、果たしてこのシリーズもハードボイルド・ミステリとしての老成の域に達していると言っていいかもしれない。しかし、今回も、一人称の物語に三人称の視点を持ち込むという新しい試みに挑むなど、マンネリズムや退潮感はほとんど感じられない。同じ異常心理を扱うにしても、倒錯三部作の頃に較べて、やや静寂な雰囲気が漂っているが、読者を引き込む手腕や読み応えは十分ある。まだまだ書きつづけてほしいシリーズだ。なお、セミナーというわけではないが、スカダー・シリーズの訳者である田口俊樹氏の『おやじの細腕まくり』(講談社一五〇〇円)は、スカダー・シリーズに対する言及もある好エッセイ集。ミステリ・ファンのおやじ族は必読(?)と言っておく。おしまいは、今月のいちおしジェフリー・ディーヴァーの新作『青い虚空』1/2(土屋晃訳/文春文庫八二九円)である。ユーザー名フェイトを名乗る男は、ハッキングの恐るべきプログラム<トラップドア>を自在に操る神出鬼没のハッカーにして、連続殺人犯である。その彼の犯行を阻止し、捕らえるために、服役中の天才的な
セミナーに白羽の矢が立てられた。彼の名は、ジレット。フェイトが次々に繰り出す魔の手に、ジレットは敢然と立ち向かうが。シリコンヴァレーを舞台に繰り広げられるハッカー戦と言うと、おたくなコンピュータ小説と敬遠する向きもあるだろうが、そこはディーヴァー、十分にユーザー、じゃなかった読者を楽しませるすべを心得ている。二転三転する物語の切り返しが鮮やかだし、登場人物たちも分厚く、しっかりと描かれている。仕掛けが反則すれすれだけれど、抜群のリーダビリティとトラック買取はそれを補ってなお余りある。恋愛小説としての面白さもあり。 今月はSFの新刊がほとんどない。こうなったら息子ネタでも書いてお茶を濁すしか。と思ってたところ、とうに締切過ぎて角川ホラー文庫から注目作がどかすか登場。な、なにも一度にこんなたくさん出なくても……と嬉し涙を流しつつ、六冊まとめて一気読み。 SF読者向けのイチ押しは、Jコレで出てもおかしくない直球の文系本格SF長編、中井拓志『アリス』(六二九円)。隔雛された研究施設で発生した”事故”が物語の核心になるのはデビュー作『レフトハンド』と同様だが、今回の舞台は千葉の片田舎に造成された学術研究都市。その一画にある国立脳科学研究センターの巨人な地下ドームに、十四歳の少女、比室アリスが幽閉されていた。七年前、東晃大学医学部研究棟で六十人余が同時に意識障害を起こす惨事があり、真相は闇のまま葬られたが、この事件の元凶こそ、当時七歳のサヴァ.ン能カ者アリスだったのである。以来、厳重に隔離されてきたアリスが七年ぶりに”発動”する冒頭百ぺージは無敵の面白さ。覚醒シーンのスペクタクルは『AKIRA』ばりだし、施設を抜け出した彼女が住宅街を蹂躙する描写は怪獣映画ノリ。サヴァン症候群をフラクタル次元と結びつける発想は悪くないし、「9・7次元上を舞う蝶のはばたき」が現実認識を変えてゆく幻想的なイメージも秀逸。その分、国産文系SF伝統の病(理論的な説得力を欠いたまま言葉のイメージだけが先行する)とも無縁ではないが、その短所まで含めて、山田正紀-牧野修ラインの直系に位置する本格SF。Jコレ第二期の開幕を待ちわびる日本SFファンはお見逃しなく。牧野修の第二短編集『ファントム・ケーブル』(六二九円)1/2は、著者十八番のえぐい電波系スプラツタを軸に(SF味の薄い)本格ホラー八編を収録。質的には安心して(!?)読める反面、持ちネタだけで勝負している感も少々。「怪物癖」「ヨブ式」など、結末は(牧野的)予定調和に見えるし、『忌まわしい厘』に比べるとちょっと……と思っていたのだが、巻末の「死せるイサクを糧として」に荘然。冒頭三ぺージの強烈なぶちかましから、聖書をネタに奇怪な論理へとつなぐ展開もすばらしい。これは傑作。小林泰三『家に棲むもの』(五一四円)も『ファントム・ケーブル』同様の長所と短所(安定感。